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野村證券への業務改善命令の理由を解説!誰が悪くて何が問題だったのか

更新日:

2019年の5月、野村HDと傘下の野村證券に、業務改善命令が下されました。

 

情報漏洩とか、インサイダーなどという単語ばかりが強調されて言われていますが、ちょっと正確でない部分があります。

解説
「行政処分の理由は?」
「野村の何が悪かったの?」

という疑問に、金融業界以外の方から見ても分かるように解説します。

 


金融庁が下すような行政処分は、概ね「法令に違反したとき」であるケースが多いですが、今回野村證券は法令に違反していません

そこに今回の処分の意義がありそうです。


今後の証券業界、金融業界に与える影響も含めて解説していきます。

 

多くの記事の論調は野村證券に対してきわめて批判的ですが、個人的には少し違う意見を持っています。


どうぞご覧ください。

 

 

1.業務改善命令

 

今回の行政処分は「業務改善命令」といって、処分内容としても相当に重い部類です。

このくらいの重い処分は、例えばインサイダー取引など、明らかに法令に違反した際に受ける処分ということが通例です。

 

しかし今回の野村ホールディングス(以下野村HD)と野村證券への処分は

法令には違反していないけど、罰する

というところが重要なポイントです。

 


今回野村證券の社員による情報漏洩は「インサイダー取引には当たらず法令違反ではない」ものの、

市場の公平性をゆがめる悪質な行為」であると判断し、金融庁は今回の処分に踏み切ったのです。


では、野村證券の何の行為が悪かったのか、行政処分の引き金を引いたのは誰なのか、について解説していきます。

 

 

2.インサイダー取引とは

 

インサイダー取引は法令違反ですから、完全アウトです。

このことを少しおさらいしておくと、例えば野村の社員が、業務の中で取引先の企業の内部情報を得たとします。

こういう「インサイド」の情報を利用して、株の売買をして利益を得たら、その売買をした行為が法令違反、アウトです。


要するに、仕事の中で知った

「A社がB社を吸収合併するらしい。A社株上がるかもしれないから、買っとこう!」

なんてことをやると、それは「ずるい」ので、こういう行為が金融商品取引法で禁止されているものです。


他にも業績が上がるとか、決算が赤字らしい、とか。新製品の発明に成功したらしい、とか、増資、経営悪化の情報など。

証券会社に勤務している中で知った特定の企業の情報を使って、自分の私腹を肥やすのはいけませんね、ということです。


これが「インサイダー取引は法令違反」ということで、金融商品取引法、通称「金商法」で厳しく禁止されています。

やってしまうと、その「社員」が法令違反です。

この場合、証券会社というよりは、社員個人が罰せられます。


しかし証券会社は自己の取引としても株の売買やトレーディングをしているので、こういう内部情報を得た上で株取引に利用したら、証券会社に対して行政処分が下されます。

 

 

ところで、金融商品取引法では、インサイダー規制は、株式を売買して利益を上げた行為者が罰せられるんですが、情報を漏らしただけでは法令違反の対象にはならないんです。

ここは大事なポイントです。

あくまで、漏らした人ではなく、漏れた情報を使って、株で売買して儲けた人が罰せられます

 

 

 

3.漏洩した情報の内容

 

では、今回問題となった事柄の内容を見てみます。


東証1部に上場されている企業数は現在約2000社と多くなっています。

近年は、企業ごとの規模や質もバラつきがあり、全体的にも東証1部のクオリティが落ちてきていることが従来から問題視されていました。


そこで、「東証1部に入れる企業の基準を厳しくしよう」という話が東証で行われています。

東証1部に残れる企業は「時価総額が500億円くらいが足きりラインなのではないか」と噂になっていました。

 

東証は「この足きりの基準、どうしようかなあ」と悩み、有識者懇談会を開催したりしながら検討を重ねてきました。

この有識者懇談会は、業界の知見がある偉い方々が集まって、1部上場基準を話し合う会だと思われますが、ここに出席していたのが野村総合研究所の大崎氏です。


この大崎氏が「時価総額基準は500億円ではなくて250億円くらいになりそうですよ」というような趣旨の情報を外部に漏らしたんです。

これが発端です。

 

この情報は、株取引をしている人はすごく欲しい情報です。

「東証1部に上場している」という看板は、企業にとってはグローバルで見ても絶大ですし、もし2部へ降格となれば、その企業の株価はそれなりに下落するでしょう。

 

「500億円以下は降格」と言われていたものが「いやいや250億円までは大丈夫ですよ」と言われたら、下落すると思われていた株価が上がる企業が出てきます。

 

そういうことで、この「足きりライン情報」は極めて重要で、これが流出することのインパクトは相応にあるというわけです。

これを知れた人だけが事前に株の売買をやって儲けたら、ちょっとずるいし許せないですよね。

 

 

最初に漏らしたのは、有識者懇談会のメンバーである野村総合研究所の大崎氏と言われています。

 

注意点ですが、野村「総合研究所」です。
処分を受けた野村ホールディングスでもないし、野村證券でもないんです。


野村證券は、野村HDの傘下にある証券会社です。

しかし野村総合研究所は野村HDのグループ会社ではないんです。

完全に他社なんです。

(株主でしょという意見もありますが、株主であることはグループと考える理由に何一つ当たりません。)

 

 

では「なんで野村HDと野村證券が処分を受けたの??」という疑問が湧きませんか?


野村総合研究所の大崎氏から漏れて、伝わった先が、野村證券の社員であるストラテジストや数名の営業員なのです。

加えて、この野村HDのストラテジストが、野村證券が取引している大手の機関投資家に「情報提供です」といった形でさらに伝達されます

大手の機関投資家とは、ほぼ国内の大手の金融機関でしょう。


整理すれば

野村総合研究所の大崎氏

⇒野村證券ストラテジスト

⇒大手の金融機関


という伝わり方です。


野村證券としては、漏れてきた情報を、自分の客である大手金融機関に伝えただけです。

では、この「漏れてきた情報を拡散した」という野村證券のストラテジストの行為がどのくらい悪いのかについて触れてみます。

 

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4.誰が罰せられるべきなのか


「インサイダー」の説明でも解説しましたが、インサイダーは個々の企業の情報を掴んで、それで株式の売買をするとアウトでした。

しかし今回の漏れた内容は、個々の企業の情報じゃないですよね。


かつ「情報を漏らした」のは、そもそも野村「総合研究所」の大崎氏であり、野村「證券」の社員でもありません。

さらに言えば、野村證券社員は、自身で東証の株を売買したわけでもありません。

インサイダーは、「漏らした人」ではなく、漏れた情報を使って売買して儲けた人が罰せられるんでしたね。

なので、そもそも今回の野村HDの行為はインサイダー取引には当たらないですし、法令には全く違反していません

野村證券の社員は、ただ情報を拡散しただけだとの見方もあります。

 


しかし、金融庁は、この野村證券の行為に「No」を突き付けたんです。

ちなみに、金融庁としては、野村総合研究所は監督対象ではないので、野村総合研究所への金融庁からの処分はなしです。


ちょっと複雑な心境になりませんか?

「野村證券のやったことって、どのくらいアウトだったんだろう?」

「悪いのは野村総合研究所の大崎氏なのでは...」

ぼくは最初はこのように感じました。

 

 

5.金融庁の主張と行政処分の理由

 

 

金融庁の今回の処分は「法令違反ではないものの、市場の公平性を損なう極めて悪質な行為」だとしています。


野村證券の社員の伝達によって、今回の「足きりライン」のような重要な情報を一部の大口の投資家だけが知っている、という状況になってしまったわけです。


これにより日本の株式市場の公平性が損なわれるので、インサイダーのような個別の企業の情報でないとしても、それに近いくらい悪質だということでしょう。

 


金融庁がこれだけ厳しいことを言うのには理由があります。

 

背景は2012年の「増資インサイダー事件」です。

この時に野村證券に業務改善命令が出されています

当時はリーマンショックの後、日本経済も立ち直りに苦しんでおり、多くの企業も業績悪化で苦しい時期でした。

 

多くの大手企業は「公募増資」と言って、株式を追加で発行して資金を調達し、財務基盤を強くして危機を乗り切ろうとする動きが活発化しました。

 


ところで、「株を追加で発行して資金を調達しよう」という行為は、企業にとってメリットとデメリットがあります。

資金は集まるんですが、その分、世の中にその会社の株が増えるわけですから、一株あたりの重みが変わってしまうんですね。

 

これを希薄化と言います。

それで、企業が株を追加で発行すると、一株あたりの値段は下がると言われます。


当時は東京電力やみずほなどが増資しました。

もしすでに、東京電力の株を持っている人がいたら、「増資するらしい」という情報、早めに欲しくないですか?

なぜなら、増資すると発表された瞬間、東京電力の株価は下落するからです。

 


まさにこの欲求をうまく利用したのが、野村證券の営業マンでした。

株を発行したい企業から株を引き受けて、それを投資家に売りさばくのが証券会社の仕事です。

 

まだ公にはなっていないんですが、今度、東京電力が増資するらしいんですよ。株価下がるんで今のうちに売っといて、後で増資された株も含めて買い増しませんか?

といった感じで、大手の投資家に情報を漏らしつつ、増資された株を売りさばいていくという営業をやっていたのでした。

 

こういう「一部しか知りえない情報」を先に漏らし、それを伝える代わりに増資する株を買ってもらう。

こんな営業実態が横行していて

"決まって公募増資前には株価がなぜか下がる"

 

これに海外からインサイダーが横行していると疑惑の目が向けられ、東京市場や東証自体の信頼が落ちている状況でした。

そんな中でついに調査が入り、野村證券は行政処分となったのです。

 


この時も野村證券は「情報を伝えた」だけであり、自分たちが売買したわけではありません。

その意味で、厳密に言えば野村證券はインサイダー取引をしていないですし、法令違反も犯していません。(もちろん、こういう情報を得て売買をした大手投資家はインサイダー取引として罰せられます)

 

 

とはいえ、こういう営業実態はおかしいですよね。

法令違反ではないものの、野村證券の責任がないとは言えません。

インサイダー取引をさせているのは野村證券ですし、それで儲けさせて、見返りを得るのは野村證券ですからね。

 

 

金融庁の主張を推測すれば、以下となります。

前回の野村證券への行政処分は平成24年の「インサイダー増資事案」。

この時も法令違反ではないが、「情報を漏らす」ということで市場の公平性を損なわせる行為は悪質であった。

経営陣を刷新し、情報の管理体制や、コンプライアンス意識を改善してきたはずだ。


今回の事案についても法令だけの枠内だけで考えれば、違法ではない。

しかし、結局は前回と同じではないか

「法令だけ守ればいい」という意識がそもそもダメで、株式市場への影響や「公平性」を崩すという影響を考えていないことが問題。

本当の意味でのコンプライアンス意識の浸透が出来ていないし、会社として教育や体制が不十分であり、徹底的に改善して欲しい。

 

 

これが、金融庁のHPにアップされた資料から読み取れる金融庁の主張です。

 

 

6.あいまいな基準で処分を受けるということ


法令さえ守ればいい」という考え方で、法令の網の目をかいくぐるような姿勢は「コンプライアンス意識が高い」とみなすことは出来ないというのが金融庁の主張でした。

 

過去の増資インサイダー事案の内容を振り返りつつ今回の事案を見ると、処分の意図が分かりましたし、「なるほどもっともだし、正論だ」と思いました。

 


とはいえ、難しさも同時に感じました

何故かと言えば、処分の基準があいまいだからです。


2012年の「増資インサイダー事案」は、インサイダー情報を漏らしまくり、インサイダー取引を誘発することが常態化していたので、こういう実態は法令違反でなくても多くの方が"黒"だと感じるでしょう。


ところが、今回の事案は「前回と同じと言えば同じだけど、違うと言えば違う」という気がします。

 


今回は、情報を漏らしたのは野村證券ではないですし、野村證券は得た情報を伝達しただけという見方もあります。

かつ、東証で「足きりライン」が設定されようとしていることはすでに知られていたことですし、

「500億円ではなく、250億円になるらしい」ということも確定ではありません(今日の時点でも決まっていないでしょう)。

 

そもそも、最初の「500億円の足きり」という情報も、どこかの誰かが漏らしたか、予測に基づいて言い出したのですから。

「なぜ今回だけ?」と釈然としない思いを抱いている人もいるのではないでしょうか。

現に、今回の野村の事例は「何が悪いか分からない」という意見も相応にあったと言います。

 

 


法令であれば、黒か白か線引きがはっきりしているケースが多いです(もちろんグレーゾーンなる領域もあります)。


しかし、法令で決められていない部分をどうするのかについては、コンプライアンス意識で考えろとは言っても、結局はかなり主観が入ることになります。

 

今回の処分で危険だと感じたのは、そこそこの人が「特に悪いと感じていない」ような分野が、いきなり主観で罰せられる危険があるということです。

証券会社から見ると、急に主観で「これはダメ」と言われて処分されることもあるということです。


野村證券を擁護するわけではないですが、あいまいで主観が入った基準で罰せられるようになることの危険性は高いと思います。


「法令に書いてなくても、当然で当たり前のことだろう」という「当然」は、人によって違います。

 

 

7.ビジネスという観点から見た意見

 

営利企業で働いている身としては、多くの人は「悪いことをやろう」と考えていないと思います。

何とか自分の付加価値を出して、自分のお客に役に立とう、それで実績を上げようと死ぬほど頑張っている人は大勢います。


きっと今回の野村證券の営業員もそうだったでしょう。

 

たしかに「自分の利益」と表現できないわけではないです。

しかし、その本音は自分のストラテジストという価値を高めるためだったでしょう。

一生懸命勉強して、コネクションも作り、情報を得るために日々走り回っていたでしょう。


逆を考えると、例えば証券会社の個人顧客は、証券会社から何か他にはない有益な情報が欲しくて、取引をしているはずです。

どんな銘柄が売れ筋かとか、どんな銘柄が上がりそうかとか、そういう基本的な情報もありますし、まだ出回っていないような情報も欲しいでしょう。

お金を出す代わりに、あまり知られていない秘密の情報が欲しいんです。


こういうニーズに応えるために、営業をしている側、ビジネスをしている者に取って、自分の価値を上げることは必須条件です。

 

自分のコネクションを使って得た「漏れてきた情報」が非常に重要なのであれば、それを活かして情報提供して、喜んでもらおう、ストラテジストとして付加価値を出そうと考えてしまうのは、個人的には少し分かるように思います。

 

 

法令違反をしてはいけませんが、どこまでならやってもいいのかという事を最大限考え、どこまでのサービスが提供できるのか、どんなソリューションが可能なのかを深く深く考えていくのがビジネスです。

 

出来る最大限のサービスを顧客に提供するというのは、営利企業として当然のことだと思います。

 

だからこそ、やっていいこと、悪いこと、〇と×を法令で規制し、明確に線引きすることが必要なので、それが行政の仕事ではないでしょうか


「法令だけ見てんじゃねえ」というのは、一見すると凄く正論でもありそうですが、法令で縛れないことがたくさんあることに対する悩みが見え隠れします。

 

 

あくまで個人の考えであり、賛否あることも理解してますが、ビジネスをしたことのない人たちが正論だけを振りかざしてくることには、ちょっと違和感を感じる面があります。

 

 

 

8.金融機関の今後


今回の野村HDや野村證券への処分は、「そもそも悪いのは野村総合研究所では...」と、個人的にはいまだに思う部分もあります。


ただ、過去の流れを見てみると「やむを得ない面もある...」という感覚です。

 

海外からの信頼を回復したい東証に対して、野村證券がまたもこのような「公平性を損なう」行為をしてしまったのです。

過去の増資インサイダー事案以降、野村證券を厳しく監督し、チェックしてきた金融庁は、顔に泥を塗られた気分でしょう

 

また、秘匿性の高すぎる今回のような情報が一部で回ってしまい、大手金融機関が得をして、情報を持っていない一般の投資家が損をするようなことは、あってはならないことだと思います。

 

 


今回の件を終えて、証券会社として、また金融業界としては、非常にビジネスがやりにくくなりそうです。

大丈夫だと思っていることが、急にあいまいな基準で「処分だ」と言われるおそれもあります。

何をしてよいか、何がセーフかは、自分で判断する必要があります

しかし、その判断も間違っていない保証はありません。

どこで足をすくわれるか分かりません。

 

10年、20年やっているベテラン社員なら、鋭い嗅覚で切り抜けられるかもしれません。

でも入社間もない2~3年目くらいの証券マンが、どこまで判断できるでしょうか。

 

こういう世の中になると、弊害もあると思います。

業界が過度なコンプライアンスに"コンプライアンス疲れ"を引き起こしていると言われて久しいですが、これが続くと保守的に保守的に、という考え方が強くなります。

 

ざっくりとした意見ですが、次第にチャレンジする人もいなくなり、頑張る人もいなくなってしまう恐れがあります

そうすれば収益力も落ちますし、海外の金融機関とも益々戦えなくなっていきます


金融業界にとっては、苦労する時期はまだまだ続きそうです。


おわり

 

 

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